──相澤先生の活動内容を教えて下さい。 もともとは整形外科医でしたが、現在は01年4月に開設された武庫川女子大学の文学部健康・スポーツ科学科の教授が本職です。赴任した当初からスポーツ医学や解剖学などを体育系の学生に教えています。要するに体育教師を養成するいわゆる体育学部に赴任してきたわけです。私は大学の体育学部ではスポーツ科学の最先端のことが研究・教育・実践されていると思っていたのですが、実際はそうではありませんでした。当時は、アニメ「巨人の星」に出てくる星一徹のようなスパルタ指導者だらけだったんです。ケガをしても適切な治療を受けられず放置状態で、スポーツサポートの環境としては非常に悪かったです。 私が赴任して間もないある日、左手の小指が曲がって伸びない学生が訪ねてきました。01年の6月頃だったと思いますが、その年の2月に近くの接骨院で冷え性と診断されたそうです。部活動中にボールが当たったことが原因で、既に骨折の変形治癒という骨が曲がったままというどうしようもない状態でした。私はその学生に「左の薬指は気をつけなさい。結婚する時大変やで」ということぐらいしか声をかけられませんでした。 このような状態だったので、学院長はじめ学院の先生方にお願いして02年5月、学内に保険診療が可能な保険医療機関として「武庫川学院 健康・スポーツクリニック」を作り、レントゲン撮影、外科治療、点滴、薬の処方などができる環境を整えました。このクリニックの目的にはスポーツ選手の診察治療だけでなく、健康・スポーツ分野の諸活動を医科学的にサポートできる人材を養成することも含まれています。 ──学内にそのような施設があるのはすごいことですね。
──なるほど。その他にはどのような研究をしておられますか? 私の母校の徳島大学で成長期のスポーツ傷害を専門に研究してきましたので、その解明と治療法も研究テーマです。特に野球におけるひじの傷害(野球ひじ)は放置すると生涯にわたって苦しむことになりますが、早期の発見と治療を行えば、背が伸びているうちなら跡形もなく治ります。中学生になってもまだひじが伸びない、曲がらないという状態になって、身長が伸び終わってからもそれが続くようだと治らないばかりか、どんどん悪化していきます。走る、歩く、跳ぶといった基本動作は5〜6歳で完成しますが、投球動作は12歳頃まで完成しません。指導者は「下手だから練習しろ」なんて言いますが、どれだけ練習してもこの時期の子供たちの上達には限界があるのです。しかし、子どもはそれを真に受けて1日に何百球も投げる。そんなことをすればひじに歪みが出てくるのは当然です。プロ野球は年間140試合ですが、子どもは土曜・日曜と連戦で年中野球漬けの状態になって、中には年間100試合を1人で投げている子もいるんです。それではひじが痛んで当たり前ですよ。 ──成長期のオーバーユースの弊害を指導者は軽視しすぎているのでしょうか。野球界にとってのダメージは計り知れないですね。 そうですね。我々は徳島県で20年以上前から全野球少年のメディカルチェックをしていますが、指導者の方々には「試合数、練習量をよく考えてください」と訴え続けてきました。徳島県内の野球少年のうち、ひじに痛みを感じる100人の子の中でひじが曲がらない、伸びないという野球ひじの子は1人ぐらいだと思います。尼崎市、西宮市では100人中7〜8人が野球ひじを患っていました。阪神間は日本一野球が盛んな都市と言えますけれど、超一流の投手が出てきていないことと野球ひじを患う子どもの数は無関係ではありません。 ピッチャーはチームで一番野球が上手くて、真面目な子が多いです。そういう子は指導者の言われるままに無茶を続けて野球ひじになってしまうということなんです。毎年、春・夏の高等学校選抜野球大会の前に甲子園3塁側のダッグアウトで全ピッチャーのひじと肩のレントゲンを撮影、毎年メディカルチェックの結果は異常がなかったという報道がなされます。これは小・中学生の段階でひじや肩の変形が治らなかった選手はふるいから脱落して甲子園には行けないということを意味しているんです。野球は一見安全なスポーツに見えますが、小・中学生の環境を見るとそうは言えません。メジャーリーグで活躍するイチローや松井秀喜などを見ても、野球のレベルが上がっているのは事実です。しかし、彼ら以上の能力を持つ選手がふるいにかけられて脱落してしまっている可能性が極めて高いと私は見ています。これではメジャーリーグに行ける子の可能性を奪ってしまうのではないかと危惧しているのです。 ──では、とりかえしのつかない症状になる前に察知する方法はあるのでしょうか?
Vol.1 | Vol.2
|
|
|||||||||||||||